研究概要 |
変形性関節症の関節痛発生機序における末梢神経酸感知機構の役割を探る目的で本研究を遂行中である。平成21度は、当初の予定と比べて若干の変更点があったものの、概ね計画通りの研究を行った。具体的な内容は 1. 膝変形性関節症モデルの作製と行動学的評価 ラットの片側膝関節に酢酸ヨードナトリウムを注入し、行動学的に荷重分布が不均一でかつ足底の痛覚過敏を伴った変形性関節症と類似の痛みを有するモデルの作製に成功した。 2. 上記の変形性関節症モデルラットの脊髄後根神経節を、酢酸ヨードナトリウム注入後30日目に摘出し、炎症性疼痛関連マーカーであるCGRPと酸感受性イオンチャネルのひとつであるASIC3の免疫染色を行った。染色法を確立するのに時間を要したが、CGRP,ASIC3ともに安定した染色を得られるようになった。変形性関節症モデルでは正常ラットと比べてCGRPだけでなくASCI3陽性細胞も増加しており、ASIC3の痛み症状への関与を示唆する所見を得た。 組織の酸性化に伴って増加するプロトンは、ASICまたはカプサイシン受容体(TRPV1)を介して侵害受容器を興奮させると考えられているが不明な点が多い。特に関節痛発生機序におけるASICの役割に関する報告は他になく、申請者らが新しく提唱したものである。本研究ではこれまでのところ、非炎症性疾患といわれる変形性関節症モデルにおいて、ASIC3のアップレギュレーションが起こり、この変化が疼痛行動と関連している結果を得ている。今後の追加研究により、不明な点が多い変形性関節症の関節痛発生機序の一部は、関節液の酸性化とASIC3を介した酸感知機構であるという新しい概念を碓立することが可能と考えられる。
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