本研究の目的は、変形性関節症(OA)の関節痛発生機序に、関節液の酸性化や酸感受性イオンチャネル(ASIC3)を介した酸感知機構が関連するか否か明らかにすることであった。その方法として、膝OAモデルを作製し、関節痛の行動学的評価、関節液のpH測定、および後根神経節におけるASIC3発現率の免疫組織学的検討を行った。また、酸性生理食塩水を正常膝関節内に注入し、関節液の酸性化だけで疼痛を発生し得るか行動学的に確認するとともに、酸性生理食塩水投与後の後根神経節におけるASIC3発現率の変化を免疫組織学的に検討した。本研究を遂行し、以下の成果を得た。(1)膝OAモデルの疼痛の行動学的評価により、関節局所にとどまらず関節から離れた部位にも拡がる痛覚過敏(二次痛覚過敏)を認めた。(2)免疫組織学的検討では、膝OAモデル作成後14、28日目いずれにおいても後根神経節においてASIC3の著名な発現増加を認めた。(3)膝OAモデルにみられる二次痛覚過敏はASIC3選択的ブロッカーで消失したが、関節局所の痛覚過敏はほぼ不変であった。(4)酸性生理食塩水の関節内投与により痛覚過敏は生じるが、筋肉内投与でみられるような持続性、拡大性の痛覚過敏ではなく、関節と筋肉で酸に対する反応が異なる可能性が示唆された。(5)関節液のpH計測は、再現性に乏しく実験結果を得るに至らなかった。本実験により得られたこれらの新知見は、OAの関節痛発生機序の一部を新たに解明するものであり、将来的な酸感受性イオンチャネルをターゲットにした新規治療法の開発に寄与するものと見込まれる。
|