研究概要 |
平成21年度は,疲労亀裂に曝された骨細胞の力学的環境と同じような条件で細胞培養することが可能なin vitro実験系を確立し,力学的環境と骨細胞ネットワークの応答との関連づけを行った. 具体的には,切欠き板上における骨細胞培養システムを確立した.NC制御フライス盤を用いて培養プレートから切り欠きを有する基質を切り出し,この切欠き板上で骨細胞の培養を行った.切欠き板の両端を把持し,荷重をロードセルでモニターしながらステッピングモータで往復動を与え,細胞に定量的な繰り返し伸張を付与した. 実験に先立ち,この切欠き板を伸張したときに発生する応力・ひずみ分布を,有限要素法を用いた弾塑性解析によって計算した.その結果,10Nの荷重を与えたとき,切欠き底では1.2%の最大引張りひずみを生じることが明らかになった. 実権では,切欠き板上に骨細胞を播種して細胞間ネットワークを形成させた後,10Nの荷重を周期1Hzで1, 3, 5時間負荷した.荷重負荷後に細胞を走査型電子顕微鏡によって観察したところ,0.7%以上の引張りひずみが生じる領域では,骨細胞の突起の収縮や細胞体の断裂等が認められた.Propidium iodide (PI)によって細胞を染色してネクローシスの発生を確かめたところ,切欠き底近傍ではPI陽性細胞が観察された.さらに,このPI陽性細胞の分布は荷重負荷時間とともに切欠き底から遠方へと拡がっていた.ミトコンドリア膜電位の喪失を検出するMitoPTによって細胞を染色してアポトーシスの発生を確かめたところ,ネクローシスの発生した領域に隣接した細胞においてアポトーシスの誘導が認められた. 以上の研究から,骨基質に生じる大ひずみにより骨細胞ネットワークが損傷を受け,さらに周囲にアポトーシス細胞が誘導されることが分かった.これがシグナルとなり,損傷部位をターゲットとした骨リモデリングが開始されると推察される.
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