研究課題
脊髄損傷(SCI)は四肢麻痺や対麻痺等に至る重篤な外傷であり、その治療法の確立は極めて重要な課題であるにも関わらず、現在まで、SCIの治療として大きな効果を持つ治療法は確立していない。SCIに対する治療としては、脊髄において脳からの信号を伝える伝導路となる軸索を損傷後に再生させる事、及び軸索を損傷から保護する事が臨床的に有意義な効果を発揮する可能性は極めて高い。そこで、切断された軸索の再生に焦点を当てて、我々は研究を行っている。末梢神経系と比べて中枢神経系に於いては軸索の再生が乏しい事は知られて来たが、その理由の一つとして中枢神経系に於いては軸索の再生を阻害する因子が存在する事が指摘されて来た。その中でSemaphorin3A(Sema3A)が主SCI後の軸索再生を阻害する分子として重要な役割を果たしている可能性は示唆されて来たが、そのノックアウトマウスの致死性の高さなどから、それを直接的に証明する報告はなされてこなかった。我々は大規模なスクリーニングによりSema3Aに対する阻害活性及び選択性の極めて高い薬剤を開発し、Sema3Aの損傷後の脊髄内における役割の解明を試みている。我々はこれまでに、我々が開発したSema3A阻害剤の脊髄切断損傷モデル(transectionmodel)に於ける有効性を見出したが、今回さらに我々は、実際の臨床でのSCIに近い動物モデルである脊髄のcontusion in juryモデルに、臨床応用により近いdrug delivery system(DDS)として、我々が新しく開発した材質のロッド製剤を用いた徐放化製剤としてSema3A阻害剤を投与する実験を行った。C57/BL6マウスを使用し、ロッド製剤投与群(SM群)と、controlロッド投与群に関して、以下の実験を行った。Th10を椎弓切除し、IH impactorを用いて60kDの設定でSCI contusion modelを作製した。L1を椎弓切除し、硬膜に針先で穴を開けた後、4mm長のロッド製剤を硬膜下に長軸方向に(尾側から頭側方向へ)挿入し、損傷部の尾側に留置した。運動機能評価は6週間行った。運動機能のscoring(BBB scoring)では損傷後4週目以降よりSM群でややスコアが高い傾向にあったものの、統計学上、有意な差ではなかった。今回用いたDDSは、薬剤投与法としてはworkしていると考えられるが、薬剤のdose等に関しては、これが至適なものであるかどうか、今回の実験から結論を導く事には限界がある。引き続き、実験の至適条件検討等も行いつつ、動物の個体数も増やして実験を継続していく予定である。
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慶應医学 85(2)
ページ: 191-195