研究概要 |
我々が臨床において高頻度に使用している揮発性麻酔薬セボフルランは、同じく高頻度に使用している静脈麻酔薬プロポフォールに比し、心筋虚血に対する心筋保護作用に優れていることが報告されている。セボフルランの薬理学的な心筋保護作用を発揮する機序としては、大きく分けて二つの機序がある。すなわち、(1)心筋虚血前に投与しておくことにより、虚血・再潅流による心筋障害を抑制するPreconditioning作用、及び(2)虚血後、冠動脈血流の再潅流時から投与し、虚血・再潅流障害を抑制するPostconditioning作用である。今回は、心停止下に施行する冠動脈バイパス術または大動脈弁置換術の予定手術患者を対象に、大動脈遮断解除直後よりセボフルランを投与するPostconditioning処置を施行した場合、Postconditioning処置を施行しないプロポフォール麻酔群に比し、術後の心筋障害及び心機能低下が抑制できるかどうかを検討する。 方法としては、人工心肺開始前と人工心肺を離脱後に経食道心エコーによる心機能評価を施行し、セボフルランpostconditioning処置が再潅流後早期より心機能をより良好に維持し得るか検討し、さらに循環動態の指標として、肺動脈カテーテルによる肺動脈楔入圧、心拍出量、中心静脈圧、末梢血管抵抗、平均動脈圧も同時に測定し、術後ICU入室時、24、48、72時間後まで測定。 また、麻酔導入前、術後ICU入室時、24、48、72時間後に、心筋壊死の指標として、血清cTnI、心機能の指標として、血清NT-proBNPの測定を施行し、セボフルランの効果を検討中である。 さらに、再潅流障害において発現される炎症性サイトカイン(IL1β, IL6, IL8, TNF-α)、接着分子(ICAM-1, VCAM-1, E-selectin)の血清中の濃度測定を、#2と同様の時点で施行し、セボフルランの効果を検討する。いずれの測定も市販のELISA kitを用いて測定する予定である。
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