神経障害性疼痛はオピオイドや非ステロイド性抗炎症薬のような鎮痛薬が有効でない場合があり、治療に難渋する痛みの代表的なものである。原因として神経損傷に伴う炎症や下行性抑制系の機能不全などが考えられているが不明な点も多い。 抗うつ薬は神経障害性疼痛に対して第一選択である。抗うつ薬が神経障害性疼痛を抑制する機序は、シナプス間隙でモノアミンの再取り込みを阻害し、下行性抑制系を活性化させることによると考えられている。下行性抑制系には青斑核から脊髄後角に投射するノルアドレナリン(NA)作動性と、延髄吻側腹内側核群から脊髄後角に至るセロトニン(5-HT)作動性の2つの経路が知られている。抗うつ薬の投与によってこれらの経路が脊髄後角でどのように働いているのかは不明である。我々はまず行動実験で5-HT/NA再取り込み阻害薬(serotonin-noradorenalin-reuptake inhibitor : SNRI)であるミルナシプランを全身投与すると、SNLモデルの痛覚過敏は抑制できたが、正常ラットにおいては鎮痛作用が認められなかった。次に脊髄腰膨大部のホモジェネートを作成しNA/5-HT量を測定したところ、SNL作成後2週間では正常ラットに比べてNAが増加していた。 SNRIを静脈内投与し脊髄後角でのNA/5-HTの変化を、正常ラットとSNLラットで比較した。SNRIを30分間隔で1-3-10-30mg/kgと投与してcumulative dose-response curveを作成すると、SNLラットでは正常ラットより多くのNAの増加が認められたが5-HTは変化がなかった。これらの結果から神経障害性疼痛に対するSNRIの鎮痛効果は、主に脊髄でNAを増加させることによって発現していると考えられた。同様の実験をserotonin selective reuptake inhibitorの用いて行う予定である。
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