平成21年度はラット出血性ショックモデルを作成し、セボフルランとプロポフォールが出血性ショック時の糖代謝に及ぼす影響を検討した。ラットにセボフルラン麻酔下で出血性ショックを導入した場合、すべての個体(8匹)がショック導入後30分間生存し続けたのに対し、プロポフォール麻酔下ではショック導入後30分以内に8匹中4匹が死亡した。この間、セボフルラン麻酔下ラットの血糖値は、プロポフォール麻酔下ラットの血糖値と比較して有意に高値であった。出血性ショック時の糖代謝にセボフルランとプロポフォールが及ぼす影響の差を説明する機序を解明する目的に、出血性ショック導入前にKATPチャンネル阻害薬を用いた処置を行い、セボフルラン麻酔下およびプロポフォール麻酔下での糖代謝がどのように修飾されるかを検討したところ、KATPチャンネル阻害薬を用いた処置により、セボフルラン麻酔下での血糖値は有意に低下したが、プロポフォール麻酔下の血糖値は有意には変化しなかった。膵臓β細胞のKATPチャンネルが阻害されるとインスリンが分泌される。文献的には、セボフルランはKATPチャンネルを開口させるのに対し、プロポフォールはKATPチャンネルを阻害することが報告されている。このことから、上記の結果は出血性ショック時のインスリン分泌に対してセボフルランとプロポフォールが及ぼす影響の差を反映していると考察した。 平成21年度の研究結果から、出血性ショック時の糖代謝に対しセボフルランとプロポフォールが及ぼす影響の差には、セボフルランとプロポフォールがインスリン分泌に及ぼす影響の差(糖利用への影響の差)が有意に関与している可能性が示唆された。
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