1. 研究成果 (1) 脊髄前角ニューロンにおけるオピオイド起因性電流の解析 幼若ラットより脊髄スライス標本を作成し、脊髄前角ニューロンよりホールセル・パッチクランプ記録を行った。選択的μ受容体作動薬であるDAMGOを灌流投与したところ、約60%の細胞で外向き電流が誘起された。このDAMGO誘起性電流はテトロドトキシンによって影響されず、用量依存性であり、そのEC50は約0.1μMであった。さらに興奮性ならびに抑制性シナプス後電流の頻度を減少させることを明らかにした。 (2) 虚血負荷における神経細胞死の解析 虚血模倣液灌流投与によって全ての細胞で細胞死を示唆する内向き電流が誘起された。この電流の潜時を解析したところ、日齢や、細胞膜特性の膜容量と安静時膜電位に相関することが判明した。 2. 研究結果の意義と重要性 モルヒネやフェンタニルなどのμ受容体作動性の鎮痛薬は周術期に頻用されるが、これまでに脊髄前角細胞における作用を報告したものはない。本研究により脊髄前角に存在するμ受容体が細胞膜の興奮性やシナプス伝達を修飾していることが明らかになった。また、虚血負荷による細胞死の様態につき、細胞膜特性や日齢といったパラメータが影響を及ぼしていることを示した。これらのパラメータを補正したうえで虚血病態におけるオピオイドの作用を解析することで、脊髄虚血が重篤な合併症のひとつに挙げられる大血管手術の麻酔管理に新たな知見を加えることができる。
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