1.研究成果 (1)脊髄前角ニューロンにおけるオピオイドの作用 脊髄前角ニューロンよりホールセル・パッチクランプ記録を行った。選択的μ受容体作動薬(DAMGO)を灌流投与すると電流が誘起された。電流-電位曲線から得られた逆転電位は-86mVであった。K^+チャネル阻害薬を同時に灌流投与すると電流の振幅が抑制された。電極内液にK^+チャネル阻害薬やG蛋白質阻害薬を添加することでも電流の振幅が抑制された。これらの結果からDAMGOはG蛋白質を介して内向き整流K^+チャネルを開口し、膜を過分極すると考えられた。さらに微小シナプス後電流への作用を解析することで、μ受容体は脊髄前角ニューロンのシナプス末端にも存在し、その活性化により神経伝達物質の放出が抑制されることが判明した。 (2)虚血性神経細胞死に対するオピオイドの作用解析 虚血模倣液灌流投与によって誘起される内向き電流の潜時を測定した。DAMGOを同時に灌流投与したが、内向き電流の潜時に有意な変化は認められなかった。 (3)運動ニューロンの同定 麻酔下に大腿四頭筋内に逆行性神経トレーサーの結晶を埋設した。24時間後に脊髄スライス標本を作成し顕微鏡で観察すると、蛍光を発する運動ニューロンを同定できた。しかし、埋設術後生存率は10%程度と低く、さらなる手技の改善を要すると考えられた。 2.研究結果の意義と重要性 μ受容体作動性のオピオイドは周術期に頻用される。これまで脊髄虚血を増悪させる可能性が報告されていたが、その細胞レベルでの作用は不明であった。本研究により脊髄前角ニューロンに存在するμ受容体がG蛋白質を介して内向き整流K+チャネルを開口し細胞膜を過分極すること、また、シナプス末端に作用して神経伝達物質放出を抑制していることが明らかになった。しかし、これらの作用は虚血病態において有意な影響を及ぼしていなかった。大血管手術の麻酔管理にオヒオイドを使用しても、過去の報告から示唆される神経障害を助長する作用はないと推測される。
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