Wistar系成熟雄性ラットの脊髄横断スライスからのブラインドホールセル・パッチクランプ法を用いた電気生理学的解析によって、局所麻酔薬であるブピバカイン(0.5mM及び2mM)は、NMDA(100μM)起因性電流の振幅を有意に抑制することが分かった。同様に、ブピバカイン(0.5mM及び2mM)はAMPA(10μM)起因性電流の振幅を有意に抑制した。しかしナトリウムチャネル阻害薬であるtetrodotoxin(0.5μM)ではそれらの振幅は変化せず、tetrodotoxin存在下でもNMDA及びAMPA起因性電流の振幅はブピバカインによって抑制された。またブピバカイン溶液のpHを7.0、8.0に調整し、pHが抑制率に与える影響を検討したが、いずれの溶液でもNMDA起因性電流は抑制され、それぞれのpH間で有意差はなかった。 ここまでの結果から、ブピバカインがグルタミン酸受容体を介した興奮性伝達を抑制する作用があり、その機序にナトリウムチャネルの阻害作用は関与せず、またpUが7から8の範囲ではpHの変化による影響は少ないといえる。局所麻酔薬がNMDA受容体を抑制することは単純な実験系を用いた実験では分かっていたが、これまで脊髄において、電気生理学的にそれを明らかにしたものはない。局所麻酔薬の作用は主としてナトリウムチャネルの阻害作用を介したものだが、局所麻酔薬のグルタミン酸受容体への抑制作用が、特に脊髄くも膜下麻酔・硬膜外麻酔や痛みの治療において作用の一端を担っている可能性を示すことができた。
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