研究概要 |
オピオイド耐性形成後の痛覚伝達機構の変化について、詳細は不明のままである。α2受容体作動薬とμ受容体作動薬のpost-receptor mechanismの共通性が、オピオイド耐性後の鎮痛機序に関与するのではないかという着想のもと、α2受容体作動薬によるオピオイド耐性抑制の可能性を明らかにする。まず、細胞内情報伝達系の詳細を明らかにするために、脊髄スライス標本によるシナプス電流の解析を行った。ウレタン麻酔下にラットの脊髄腰膨大部からスライス標本を切り出し、膜電位-40mV固定下に後角第II層細胞からホールセルパッチ記録を行った。その結果、α2A受容体作動薬オキシメタゾリンとα2C受容体作動薬ST-91の灌流投与によって、α2受容体作動薬デクスメデトミジンと同様に外向き電流が誘起された。次に、α2受容体作動薬による外向き電流に対してα2受容体拮抗薬アチパメゾールの抑制効果を解析した。単回投与によるアチパメゾールの拮抗作用は5時間後の外向き電流も抑制した。以上の結果から、シナプス後細胞にはα2A,α2Cが存在することが明らかになり、α2受容体作動薬はシナプス後膜でα2Aまたはα2C、または、それら両方に作用し、カリウムイオンチャネルを介する過分極を引き起こし興奮の伝達を抑制すると考えられた。μ受容体作動薬も同様に、カリウムイオンチャネルを介する過分極を通して膜電位の閾値が上昇する。これらの受容体を介する共通機序の一部を拮抗することで、オピオイド耐性の形成に何らかの抑制性の影響を及ぼすのではないかと推察することができ、この結果は重要な意義をもつと考える。
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