培養気道上皮細胞のNCI-H292細胞を継代培養して実験に用いた。炎症性サイトカインであるTNFαで細胞を刺激するとインターロイキン8(IL-8)が産生され、その産生が麻酔薬であるプロポフォールによって増強されること、それがGABAA受容体を介してp42/44 mitogen-activated protein kinaseのリン酸化を促進することにより引き起こされることを発見した。このことから気道上皮細胞に発現しているGABA受容体がサイトカイン産生の調節を担っている可能性が示唆された。次にGABAB受容体の関与を検討するためにGABAB受容体拮抗薬や作動薬を用いてTNFα刺激によるIL-8産生への影響を測定したが、GABAB受容体拮抗薬や作動薬の前処置ではIL-8産生量は変化しなかった。 さらに、気道免疫のfirst stepとなる気道粘液(ムチン)産生においてGABA受容体が関与するか検討した。TGFαによって細胞を刺激すると濃度依存性に分泌型ムチンの一種であるMUC5ACの分泌が促進された。GABAA受容体に作用するといわれている麻酔薬、プロポフォールとミダゾラムで前処置すると、ミダゾラムは濃度依存性にTGFα刺激によるMUC5AC産生を抑制した。しかし、プロポフォールは抑制しなかった。ミダゾラムの作用がGABAA受容体を介したものか知るためにGAB飴受容体拮抗薬で前処置して実験を行ったが、GABAA受容体拮抗薬はミダゾラムの作用を抑制しなかった。よってムチン産生においてGABAA受容体の関与は証明されなかった。GABAB受容体拮抗薬や作動薬もTGFα刺激によるMUC5AC産生量を変化させなかった。 気道上皮におけるIL-8の産生は好中球遊走を惹起するなど気道炎症に重要な役割を持っており、GABAA受容体はその産生過程を修飾している可能性があり、今後新しい治療ターゲットとなりうることが示唆された。
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