研究概要 |
心収縮サイクルにおける心筋細胞の再分極相では内向き整流Kイオン電流が生じ、膜電位は静止膜電位に戻る。この内向きKイオン電流のうち非常に速い成分であるIKurは心房筋の再分極に重要な役割を果たす。IKurを担うイオンチャンネルKv1.5の異常は心房細動を引き起こすことが判明している。心房細動の作用機序はリエントリーであり、薬理学的に不応期を延長させれば、その予防、停止が可能である。麻酔薬にこの作用があると推定されている。本研究では計算機シミュレーションによりヒトKv1.5(hKv1.5)立体構造を予想し、この構造をもとにセボフルラン結合部位を探索した。探索によって得られた結合部位をもとに、セボフルランのhKv1.5に対する機能修飾を推定した。シミュレーションは、Molecular Operating Environment(CCG, Canada)を用いて計算を行った。開状態のKv1.2構造を鋳型としてホモロジーモデリングによりhKv1.5構造を作成した。得られた構造に対しセボルランの結合部位を探索した。その結果、hKv1.5に対しセボフルランはPre-filter water site,脂質結合部位,ヘリクス間に結合した。Pre-filter water siteは、K+の脱水和過程に関与する構造化水の位置であることからセボフルランはイオンの脱水和過程を修飾すると推定される。また、セボフルランは脂質結合部位の相互作用を介してチャンネル開閉を修飾する可能性がある。セボフルランはhKv1.5のイオン伝導をブロックして不応期を延長させることにより、心房細動予防効果をもつ可能性が示唆される。
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