本研究は、GABA_A受容体介在性Tonic電流の生理学的意義の解明を目的とする。 ddyマウスの坐骨神経にPEチューブを装着し、一側神経を圧迫し後肢の慢性疼痛モデルを作成した。Hargreave testで、カフ装着前の潜時が健肢で6.7±0.3秒、患肢で6.7±0.4秒と差がないのに対し、カフ装着3日目より患肢では4.9±0.3秒と有意に短くなり、熱刺激に対する疼痛閾値の低下が認められた。閾値の低下は術後15日目頃より回復傾向が認められた。また、Von Frey testで機械刺激に対し、カフ装着前では健肢9.4±0.6、患肢で8.3±0.4と有意差がないのに対し、カフ装着後3日目では患肢で2.4±0.2と有意に閾値の低下が認められた。閾値の低下は、熱刺激とは異なり、術後15日以降も持続した。また、熱刺激、機械刺激ともに、坐骨神経の露出だけを行ったSham手術群と比較しても有意な閾値の低下が認められた。 次に、RT-PCR法により、マウスの脊髄におけるGABA_A受容体サブユニットのmRNAの発現量の変化を検討した。Tonic電流に関与するサブユニットの候補として、δ-、α5、α4、α6の発現量を検討した結果、δ-サブユニットが疼痛モデルマウスの脊髄で減少していることが明らかになった。 現在、ホールセルパッチクランプ法により、脊髄後角膠様質細胞におけるtonic電流の検討を行っているが、モデルマウスではtonic電流を有する細胞の数が減少している傾向にある。 これらの結果から、GABA_A受容体介在性tonic電流の減少が、坐骨神経カフモデルのマウスの疼痛行動を引き起こしていると考えられる。本研究は、GABA_A受容体介在性tonic電流の生理的意義の解明だけではなく、減少したGABA_A受容体を増加させる遺伝子治療や薬剤の開発により難治性疼痛の治療の開発にも役立つと考えられる。
|