細胞膜を通して生体が何らかの物質を細胞内に取り入れる際、受動的な拡散による取り込みのほかに、トランスポーターを介した物質の取り込み機構がある。全身麻酔の際に使用される非脱分極性筋弛緩薬であり、世界中で汎用されているベクロニウムは、投与後3-5分で体動を消失させ、人工呼吸、手術が安全に実施できるようになる。しかし、その反応には個人差があり、短時間で効果が消失することもあれば、作用が予想以上に遷延することもある。ベクロニウムは投与直後から肝臓への再分布が起こり、急速に血中濃度が減少する。単純な拡散による取り込みではなく、担体を介した機構が存在することが考えられ、個体差はその遺伝子多型が関係している可能性がある。本研究ではベクロニウムを輸送すると考えられるトランスポーターの遺伝子多型による作用の違いを検討する。 研究期間中に明らかにしたいのは以下の3点である。 ・ 全身麻酔を施行される患者にベクロニウムを投与し、筋弛緩モニターを使用して効果消失までの時間を測定する。患者から採血し、血清はベクロニウムの濃度測定に利用し、白血球からゲノムを抽出する。OCT1の遺伝子配列を解読し、遺伝子多型の有無、変異のタイプと臨床データを対比させる。 ・ OCT1ノックアウトマウス、対照マウスにベクロニウムを投与し、血中濃度の変化、肝臓への取り込み量の違いを比較する。 ・ 遺伝子多型を導入したOCT1遺伝子をアフリカツメガエルのOocytesに導入し、発現させる。放射性同位元素でラベルしたベクロニウムを取り込ませ、取り込まれた量を計測し、遺伝子多型による違いを比較する。
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