感染症に罹患すると、ヒトは周囲への関心が低下し、疲れやすく、睡眠が断続的となり、活動性が低下する。これら精神状態の変容には炎症性サイトカイン産生が関与するといわれているが、その機序は不明である。本研究の目的は、高サイトカイン血症を来たす全身性炎症反応が中枢神経活動に及ぼす影響を明らかにすることである。 本年度は、グラム陰性菌の細胞壁を構成するリポポリサッカライドを投与して敗血症を誘発したラットにおいて、中枢神経系の主な興奮性神経伝達物質であるアセチルコリンの大脳皮質における放出量の変化をマイクロダイアリーシス・高速液体クロマトトグラフィーを用いて検討した。雄性Wistarラットを用い、ペントバルビタール麻酔下にマイクロダイリーシス用のガイドカニューラを脳定位的にラット大脳皮質に挿入、固定した。12時間の回復期間の後、透析プローべを挿入し、アセチルコリン放出量を15分毎に測定した。90分間無処置で基準値を測定した後、イソフルラン麻酔下にリポポリサッカライド静脈内投与し、その後2時間アセチルコリン放出量を測定した。 その結果、リポポリサッカライド投与時にアセチルコリン放出量を減少させることが知られているイソフルラン麻酔の影響によると思われる一過性のアセチルコリン放出量の減少を認めたが、その後のアセチルコリン放出量は回復し、基準値と有意差を認めなくなった。 リポポリサッカライド投与後、ラットの活動性は一定せず、アセチルコリン放出量と活動性には関連性が認められた。今後は個体数を増やしてリポポリサッカライド投与後の活動性とアセチルコリン放出量の相関を検討するとともに、体温や全身性炎症反応の血中マーカーの測定、脳波測定などを行い、炎症反応と中枢神経活動の相関を明らかにしたい。
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