本年度の課題は、一側肺換気を行ったときの虚脱肺で起こる変化の解明であったが、一側肺換気モデルの作成に終始した。当初は、マウスを用いて片肺換気を行うモデルを作成する予定であったが、片肺換気の確実性が低く、血液ガスなどの血液データを経時的に測定できないため途中で断念し、ラットを用いてモデル作りを行うこととした。ラットに全身麻酔を導入した後、気管切開を行い、気管切開口よりプラスチックカニューレを挿入し、その深さを調節することで両肺換気と左一側肺換気を同一個体で行うことが可能となった。人工呼吸器を用いて最初に両肺換気を行った後、約1時間左一側肺換気を行い、その後両肺換気に戻し約1時間人工呼吸を行った。実験中は動脈にカニュレーションを施し、観血的動脈圧測定および経時的に動脈血採取による血液ガス分析を行った。結果としては、左肺一側換気時の動脈血酸素分圧の値が非常に低値であり、pHの値も低く著明なアシドーシスを来たし、臨床麻酔時にヒトで見られるような低酸素性肺血管収縮(HPV)の効果が非常に弱い結果となった。これは、動脈の確保を腹部大動脈で行うため、ラットに与える生体侵襲が大きすぎることや出血過多による貧血の進行が原因となってHPVが妨げられている可能性を示唆すると考えている。このため、現在実体顕微鏡下にラットの大腿動脈にカニュレーションを行い、出血と生体侵襲を大幅に減少させたモデルに変更しそのモデルの確立を急いでいるところである。なお、腹部大動脈カニューレ-ションによるモデルで、HPVが比較的良好に得られた検体については、左右の肺組織を採取しその組織学的検討を行っているところである。しかし、血液、肺胞洗浄液中の炎症性メディエーターの測定までには至っておらず、今後速やかにこれらの課題を行っていく予定である。
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