本年度の課題は、「片肺換気を必要とする手術の周術期にALI/ARDSの発症を予防する具体的手法の開発」であったが、ラットを用いた一側肺換気モデルを用いて、虚脱肺で起こる変化とそのメカニズムの解明に時間を費やした。このため、実際の臨床で一側肺換気を用いて行う手術症例からの検体採取および解析を行うことはできなかった。ラットの一側肺換気モデルでは、全身麻酔下に人工呼吸器を用いて一側肺換気を1時間施行し、その後、虚脱肺を再換気し1時間程度の人工呼吸を施行したモデルを使用し、虚脱させた肺と対側肺について検討を行った。また、対象として2時間両肺換気で人工呼吸を行ったラットの肺を用いた。組織学的検討では、対照群の肺はほぼ正常な肺組織であるのに対し、一側肺換気モデルでは、虚脱させた肺では、肺出血、肺胞構造の破壊像、好中球の浸潤がみられ、LPSを気管内投与して急性肺損傷を惹起させた像と類似していた。また、虚脱肺の対側肺では肺胞構造は比較的保たれるが、好中球浸潤、肺出血がみられる検体もあり、人工呼吸関連肺傷害(VILI)との関連が強く示唆された。また、それぞれのモデルにつき、血漿中および気管支肺胞洗浄液(BALF)中の炎症性メディエーターの測定をELISA法を用いて行った。それぞれにつき、TNF-α、IL-1β、IL-6、IL-8、HMGB1を測定した。その結果、それぞれにつき、対照群に比べて、虚脱肺で高い傾向が見られた。また、虚脱肺の対側肺のBALF中の炎症性メディエーターも対照群より高い傾向を示した。また、一側肺換気中の血液ガス分析の結果からは、低酸素性肺血管収縮(HPV)による酸素化の代償機構はあまり認められず、低酸素血症が持続したモデルを多く認めた。今後、別の課題でさらに詳細な検討と臨床でのデータ採取、解析を行っていく予定である。
|