リドカインは抗炎症作用を有し、術後の回復を早め予後を改善するが、リドカイン以外のアミド型局所麻酔薬の抗炎症作用については殆ど明らかにされていない。またリドカインは神経伝達の遮断に必要とされるよりも低濃度で抗炎症作用を発現するが、その際の血中濃度と組織濃度の閾値についても検討されていない。そこで局所麻酔薬を動物に投与し、血中濃度とともに組織中濃度を測定し、これらの関係を明らかにすることを目的として実験を行った。動静脈にカテーテルを留置した覚醒状態のラットモデルを用い、局所麻酔薬としてリドカイン、ブピバカインおよびブピバカインの一方の光学異性体のみを含むレボブピバカインを用いた。昨年度の実験結果に基づき、投与速度はリドカイン0.5μg/kg/min、ブピバカインおよびレボブピバカインは0.1μg/kg/minとし、120分間にわたる持続投与の後に血中濃度を求めた。次に、組織中の局所麻酔薬の濃度を測定するため、ラットより脳を摘出してホモジェネートを作成し、これに既知量の局所麻酔薬を加えて検量線を作成した。その結果、リドカインについては0-100μg/ml、ブピバカイン、レボブピバカインについては、0-50μg/mlの範囲で優れた直線性を有する検量線が作成され、組織内の局所麻酔薬の濃度の正確な定量が可能であることが示された。そこで血中濃度を測定した群とは別のラットに対してこれらの麻酔薬を同じ投与速度で120分間持続投与し、その後にチオペンタールの腹腔内投与により安楽死させ、脳組織を取り出した。表面の血管を慎重に除去した後に局所麻酔薬を定量したところ、リドカイン、ブピバカイン、レボブピバカインとも、脳組織中の濃度と血中濃度の比は等しく、長時間持続投与後、定常状態における組織への移行は3種類の局所麻酔薬間で差が無いことが明らかになった。
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