本研究は心筋の拡張状態と収縮状態で心筋内の微少潅流血管の内径を測定し、その内径にあたえる揮発性吸入麻酔薬の影響とメカニズムを明らかにするものである。ハロタン吸入で全身麻酔した雄のWistarラットを開胸し、ヘパリンを投与して抗凝固を得た後、冷却したSt.Thomas心筋保護液を上行大動脈より潅流した。心停止を得て心臓を摘出し、ビブラトームを用いて摘出心臓のスライス標本を作成した。この標本を37℃に加温したクレブス液で満たした観察用チャンバーに入れ、顕微鏡を用いて心筋内血管を観察した。従来行ってきた脳組織と比較して心筋はスライス標本が作製しにくく、得られた標本の血管も同定が困難であった。また、心筋の拡張期と収縮期にわけて血管反応の実験を行う予定であったが、収縮期の標本は血管同定がさらに困難であった。このため今後の実験は拡張期における心筋内血管を中心に行うことを余儀なくされた。この心筋内血管をフェニレフリン(0.5μM)で収縮させ、ニコランジル(0.1μM~10μM)を適用し、心筋内冠動脈の内径の変化を観察する実験を行ったが、ニコランジルによる安定した容量依存性血管拡張は得られていない。このためセボフルランまたはイソフルラン(0.5~2.0MAC)存在下でニコランジルを適用し、心筋内冠動脈の内径の変化を観察する実験も不十分な結果であった。これらは心筋スライス制作における技術的問題によるものと考えられた。内皮機能阻害薬であるibuprofen、L-NAME、tetrabutylammoniumのそれぞれで処理した標本を用いて、冠動脈をフェニレフリン(0.5μM)で収縮させ、セボフルランまたはイソフルラン(0.5~2.0MAC)を適用し、心筋内冠動脈の内径の変化を観察する実験に着手するとともに内皮細胞NO、eNOS mRNA測定実験の準備を開始した。
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