研究概要 |
パーキンソン病を始めとした大脳基底核に変性を有する疾患では運動症状のみならず排尿症状もきたすことが知られており、ADLに大きな支障をきたすことが多い。以前我々は黒質-線条体-ドパミン系が排尿機能に関与していることをヒトでの臨床研究、ネコを用いた基礎件研究で示した。更に最近は進行期パーキンソン病患者に対して視床下核脳深部刺激療法(deep brain stimulation : DBS)が施行されるようになり、運動症状に有効なことは明らかになっているが、排尿症状に対する影響はわかっていないため、今回我々はまず正常ラットを用いて検討を行った。DBSは膀胱収縮間隔を延長させる傾向にあった。DBSの前後で視床下核の単一神経活動電位測定、local field potential(LFP)の記録を行い、さらにLFPに関してDBS前後でスペクトラム解析を行った。DBS刺激後では20Hz付近のパワーが上昇することがわかった。また同時にDBS刺激前、刺激中、刺激後のそれぞれで線条体中のドパミン、ドパミン代謝物の測定を行った。DBS刺激によりドパミン、ドパミン代謝産物のDOPAC,HVAが上昇した。特にDOPACの上昇率が高かった。このことは、正常ラットではDBSは線条体ドパミンを上昇させ、代謝率も上げることを意味する。 最近の電気生理学的研究によりヒトのパーキンソン病患者やパーキンソン病モデル動物において、視床下核LFPのスペクトラム解析で15-35Hz周波数帯(β-band)のパワーが上昇しているが、抗パーキンソン病薬の投与や視床下核DBSでβ-bandのパワーが減少することが報告されており、黒質ー線条体ドパミン系の障害が視床下核LFPのβ-bandパワーの上昇に関係していると考えられている。しかし、今回の正常ラットを用いた検討では、視床下核DBSにより線条体ドパミン濃度が上昇していたにも関わらず視床下核LFPのβ-bandパワー(20Hz付近)も上昇しており、これまでのパーキンソン病モデル動物で得られた結果とは異なっている。今後はパーキンソン病モデルラットでも同様の検討を行い、視床下核LFPと線条体ドパミンの関係、更に膀胱内圧との関係についても検討し、視床下核DBSが視床下核や線条体ドパミン系、更に排尿反射に及ぼす影響について検討していく必要がある。
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