研究課題
p63蛋白は、尿路上皮を含む重層化上皮の正常発生・正常構造の維持に必要不可欠な分子である.研究代表者はこれまでに、低悪性度の膀胱尿路上皮癌は正常膀胱尿路上皮同様のp63発現パターンを示すのに対し、湿潤・転移能の高い高悪性度の膀胱癌では高頻度にp63の発現が消失すること、p63発現消失が筋層浸潤膀胱癌患者の癌死と有意に関連することを報告してきた。本研究の目的は、膀胱癌の生物学的悪性度とp63発現消失との因果関係およびその背景にある分子生物学的機序の解明にある。膀胱癌細胞株のp63発現と浸潤能との関連をみると、p63発現量が低い癌細胞ほど浸潤能が高かった。p63発現消失が膀胱癌細胞の浸潤能に及ぼす影響を見るため、p63強発現細胞のp63蛋白発現をp63siRNAにてノックダウンしたところ、浸潤能は約3倍に亢進した。一方、浸潤能が高いp63発現消失細胞にp63 DNAを強制させたところ、浸潤能は70%低下した。上より、63蛋白は膀胱癌の浸潤能を制御している可能性が示され、p63発現消失が膀胱癌細胞浸潤能亢進の原因であることが明らかとなった。p63発現消失から膀胱癌細胞の浸潤能亢進に至る分子生物学的機序として、浸潤能と関連する細胞内シグナル伝達経路の解析から、以下の機序が関連していることが判明した。すなわち,p63発現消失によるN-カドヘリン発現亢進→N-カドヘリンへのアダプター蛋白Shcの動員および結合→Erk経路の活性化→細胞遊走能・浸潤能の亢進である。一方、p63発現と化学・放射線療法治療抵抗性との関連については、同一膀胱癌細胞株の中のp63発現細胞とp63発現消失細胞でシスブラチン治療感受性を比較すると、後者で治療抵抗性が2倍高く、p63発現消失が治療抵抗性と関連することが示唆された。本テーマで関しては、今後解析を進めていく予定である。これらの研究によって解明された分子生物学的機序は、膀胱癌の浸潤・転移の生物学のより深い理解に繋がり、その分子生物学的機序に基づく創薬や新規治療法の開発に発展するものと期待される。
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http://www.tmd.ac.jp/med/uro/index.htm