嗅球から鼻腔内の嗅粘膜に至る嗅神経系は、生涯を通して神経再生がみられる特異な部位で、嗅粘膜は神経幹細胞である基底細胞や、NGF、BDNFなどの神経栄養因子を分泌する嗅神経鞘細胞を含んでおり、神経軸索の伸展を促していると考えられている。海外では脊髄損傷に対する自家嗅粘膜移植治療の臨床応用が開始され、下肢運動機能の改善効果が見られている。我々は、脊髄損傷モデルラットにおいて膀胱機能の評価を行い、嗅粘膜細胞移植によって膀胱機能にどのような変化がもたらされるかを検討してきた。これまで脊髄損傷に嗅粘膜移植をした群は、対照群と比較して膀胱内圧測定において、排尿筋-外尿道括約筋協調不全(DSD)が抑制され、排尿効率が改善していることが示唆されてきた。今年度は、その機序の解明のため病理学的検討を施行した。脊髄損傷では増加するL6/S1脊髄後角のC線維の入力における嗅粘膜の影響を評価するためCGRP、GAP43で蛍光二重免疫染色した。CGRP/GAP43陽性部位は、嗅粘膜移植群でその増加が軽減された。また嗅粘膜移植部位での軸索形成をみるため、TUJ-1、NFM、GFAPで免疫染色を行った。嗅粘膜移植部位では、対照群に比較して、TUJ-1、NFMの強い発現がみられ、新たに軸索が形成されていることが示唆された。一方、グリア性搬痕を示すGFAP陽性部位は、嗅粘膜移植群では対照群に比べて有意に減少していた。以上のことから、嗅粘膜移植部位での新たな軸索の進展により排尿効率の改善がみられた可能性が示唆された。
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