1 まず、動物実験に関しては、若干のプロトコール変更を行い、隆圧剤内服生体腎移植待機ドナーに強力なRAS抑制を行うことで、移植腎の予後、ドナー腎機能予後ともに改善する事が出来るという仮説に対して、ARBがいかに高血圧からの腎硬化症抑制効果を持つかについて動物実験にて実証を行い、ARBが高血圧に由来するアルブミン尿の出現を抑制することを見出した。これは、腎硬化症の発症予防につながるだけでなく、ARBの腎症発症前の先行的投与が虚血再灌流障害を抑制する可能性を示唆するものであった。これらの知見を第52回日本腎臓学会総会、米国心臓協会高血圧部会等で報告した。 2 H22年度に予定していた臨床研究に先立ち、retrospective研究を行った。当院における腎移植データベース、移植腎生検データベースを整備し、 1) ドナー高血圧がレシピエント腎機能の低下因子であること 2) ドナー腎の移植時における動脈硬化病変がレシピエント腎機能の規定因子であること 3) 腎動脈硬化病変は高血圧のみならず加齢にても増加すること 4) これらの変化は術前のARB投与の有無によって差異がないこと を報告した。これらの報告は安全に腎移植を行う補助になるだけではなく、高血圧や加齢が腎障害をおこすメカニズムの解明にもつながると考えられる。 3 データベースの構築から、副次的産物となるが、種々の腎移植に関する検討を行った。 1) 先行的腎移植(preemptive腎移植)が包括的腎不全医療において有用な治療法であることを報告した。 2) PD患者における腎移植における免疫抑制療法の問題点を提示した。 4 H22年度中に前向きstudyを開始し、高血圧合併ドナーの術前に腎臓内科外来にて、ARBもしくはCCBによる介入を行い、予後の変化をみる。この中で、前向き介入におけるRAS抑制薬の有用性を検討し、移植腎生検における血管病変から遺伝子を採取し、動脈硬化病変を促進する因子の検討を行う。
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