当大学の生体腎移植症例を対象として、後ろ向き臨床研究を行った。高血圧合併かつ、微量アルブミン尿陽性のマージナル領域の生体腎移植ドナーにおいて、術前からのARB投与は微量アルブミン尿の減少効果を認めたが、0時間腎生検における動脈硬化、糸球体硬化等の検討からは、組織学的な改善を認めなかった。しかし、術後のドナー腎機能保護の観点からすると、アルブミン尿を減少させることは意義があると考えられた。また、微量アルブミン尿以下の超微量アルブミン尿の段階からすでに高血圧性腎硬化症の所見を認めることも明らかにし、超微量アルブミン尿の段階からドナーに介入する必要があると考えられた。一方、摘出腎腎生検(0時間腎生検)の解析では、高血圧の有無にかかわらず、移植する腎臓に動脈硬化(小葉間動脈の線維性内膜肥厚)が存在すると、提供したドナー自身の腎機能は保たれるが、動脈硬化のある腎臓の提供を受けたレシピエントの移植腎機能は低値で推移することを報告した。これは動脈硬化や高血圧のある腎臓ではすでに尿細管の老化が始まっているため、生体腎移植という虚血再灌流障害に対して、急性尿細管壊死の影響が老化の進んでいる腎臓では出やすいためと考えられた。その他、ドナー腎に認められるIgA沈着はIgA腎症に進展する疾患ではなく移植腎予後に影響を与えないこと、腹膜透析患者では血液透析患者と比較して体液過多であり免疫抑制剤の吸収効率が弱まることを示した。また、動物実験では、糖尿病合併高血圧モデルラットを用いて、高血圧性腎硬化症は傍髄質糸球体から先行して発症し、アルブミン尿の原因がpodocyteのdysfunctionであること、ARBにて腎臓局所のアンジオテンシンIIを抑制することで、腎症発症を予防しうることを示した。
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