Angiotensin IIは腎に存在するAT1 receptorに結合することによって、癌転写因子である Hypoxia-Inducible Factor-lalpha(HIF-1α)をVascular Endothelial Growth Factor(VEGF)を介して制御することが証明されている。更に、腎細胞癌株は膀胱癌や前立腺癌株に比べ、このAT1 receptorが高発現していることが証明されており、癌の血管新生を介する浸潤、転移において、ことに腎細胞癌においてAngiotensin II receptor blocker(ARB)は他の癌種と比較しより抑制的に働くと推測される。しかしvon Hippe1-Lindau(VHL)癌抑制遺伝子mutationを有する腎淡明細胞癌株786-0/H-1を用いてin vivoにて上記ARBはcontrolに比べ約10倍の癌増大作用が示された。 以上のことより、このARBの作用機序過程のメカニズムを解明し、今後の腎細胞癌の治療、特に転移を有する進行性腎癌に対して既存の分子標的治療薬に加わる、より効果的な治療方法の選択基準の設定、確立が本研究の目的である。現在、腎癌細胞株をヌードマウスの腎に同所移植を行い、in vivoでのARB単独、あるいは既存の分子標的治療薬と併用した治療実験を行うことにより、転移形成能ならびに腫瘍増殖速度や生存期間を検討し、その治療効果、ARBの腫瘍増殖能に対する関連性を解析中である。 実際の臨床にて分子標的治療薬の主要な有害事象の1つとして、高血圧が挙げられる。その場合、Ca拮抗剤、あるいはARBの使用が推奨されているが、もし本研究においてARBの腎細胞癌増殖作用が認められれば、臨床の場においても腎癌に対して、分子標的治療薬を使用中にARBを追加投与することは、癌増殖が促進する可能性を示唆する証拠となりえることから、臨床的にも非常に意義のある研究であると考えている。
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