我々のこれまでの検討でin vivoにおいて、von Hippel-Lindau (VHL)癌抑制遺伝子mutationを有する腎淡明細胞癌株786-O/H-1に対して、ARBであるCV11974を投与する治療実験を行ったところ、controlに比べ約10倍の腫瘍増大作用が示された。そこでこのメカニズムを解明するためにVHL遺伝子mutation株ではARBに抑制されず、逆に促進される異なるpathwayが存在し、このpathwayがARBにより活性化されることにより腫瘍増殖作用を発現するのではないかと仮説を立てた。この機序、過程のメカニズムを解明し、今後の腎細胞癌の治療、特に転移を有する進行性腎癌に対して既存の分子標的治療薬に加わる、より効果的な治療方法の確立を本研究の目的とした。 ヌードマウスを用いた腎細胞癌同所移植実験を行い、in vivoでのARB単独群、分子標的治療薬(チロシンキナーゼ阻害薬(TKIs))投与群、ARBとTKIsの併用群において、癌増殖、転移形成能を比較検討した。結果、明らかな有意差は認められなかったが、ARB投与群では、癌増殖能が亢進している傾向が認められた。 またARBは正常腎尿細管保護作用があり、たとえば低酸素下状態において、誘導され、アポトーシスを抑制する作用が示されている。 以上の結果より、正常細胞保護作用と同様なことが癌組織内おいても正常細胞以上に起こり、癌細胞にARBを加えることにより、癌細胞保護作用が過剰に増強し、アポトーシスの抑制、ひいては癌増殖につながるものと考えられる。現在、この現象の詳細なpathwayは解析途中であるが、これが解明され、ARBの腎癌増殖作用が確定的なものとなれば、臨床ある高血圧に対して、ARBを使用することは、癌増殖を促進する危険性が上昇することになりえるから、臨床的にも非常に意義がある研究と考えている。
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