ヒト前立腺生検標本を用いた等尺性張力実験では、1分間に0.5-3回の頻度で20-40秒持続する緩徐な自発収縮が観察された標本と自動運動の全く見られない標本が存在したが、この中で安定した自発収縮の確認されたもののみに下記薬剤の投与を行い、評価した。 まずα1受容体刺激薬であるPhenylephrineを投与し、前立腺平滑筋の自発収縮の頻度および収縮張力がともに増加することを確認した。Phenylephrineを継続投与して自発収縮が安定した状態で、α1a受容体阻害剤とα1d受容体阻害剤をそれぞれ追加投与したところ、両者とも自発収縮の頻度および収縮張力を低下させた。これにより、ヒト前立腺平滑筋のα1受容体を介した収縮においては、α1a受容体・α1d受容体の両サブタイプが関与することが確認された。また、Phenylephrineを投与した状態でまずα1a受容体阻害剤を追加投与して自発収縮の頻度と張力が抑制されたことを確認した後、一旦Phenylephrineのみを投与した状態に戻してαla受容体阻害剤をwash outした上で、α1d受容体阻害剤を追加投与した場合、前者の収縮抑制効果が高い標本と、後者の収縮抑制効果が高い標本が存在した。これは、現在臨床的に用いられている前立腺肥大症の治療薬としてのα1受容体阻害剤が数種類ある中で、どの薬剤が効果的であるかは個人差があるということを示唆する結果であり、今後薬理学的・病理学的にさらなる検討を行うことでテーラーメイド治療に結びつくものと考えられた。
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