研究概要 |
平成20年度は、多能性を誘導する4つの転写因子(Klf4,Oct3/4,Sox2,c-Myc)の内在性の発現の有無と、細胞の分化度に着目し、その発生サイクルにおいて、エピジェネシスが特に重要な働きをしている生殖細胞を材料として、多能性幹細胞(iPS細胞)の誘導実験を実施した。申請者が保有する、Nanog遺伝子座に緑色蛍光タンパク、ピューロマイシン耐性遺伝子を組み込んだトランスジェニックマウスの胎仔から始原生殖細胞(PGC)を、フローサイトメトリーにて、Nanog陽性を指標とし、ソーティングにて採取し、細胞単位で純化することが可能になった。レトロウイルスベクターを使用して、多能性を誘導しうる4つの転写因子を、種々の組み合わせで導入し培養した。質の高いiPS細胞の指標として、蛍光タンパク(DsRed)を同時に導入した。またPGCのリプログラミングに必須のbFGFを除いて多能性幹細胞の誘導を試みた。その結果、4つの転写因子のどの組み合わせでも、また、非常に興味深いことに、Klf4,Oct3/4,Sox2,c-mycのうちどの1つの転写因子のみでも、ES細胞様のコロニーが約0.3-0.7%の高い効率で出現した。これらのコロニーは、種々の多能性のマーカーを発現し、20世代以上に渡って安定したES様のコロニー形態を呈し、ヌードマウス皮下移植によって、テラトーマの形成能を呈する、多能性幹細胞であることが証明された。PGCは多能性誘導に必要な転写因子を元来発現していることから、より少ない転写因子で、多能性幹細胞を誘導できることが示唆された。引き続き、小分子化合物を併用して、更に誘導効率を改善させて、多能性誘導・維持のメカニズムを解析していく予定である。
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