研究概要 |
筋層浸潤性膀胱癌モデル動物としての、ヒトプロト型c-Ha-ras遺伝子導入トランスジェニックマウスrasH2の有用性を検討した。 対象・方法:rasH2とそのlittermateの野生型(WT)を実験に用いた。マウスに0.05%N-butyl-N-(4-hydroxybutyl) nitrosamine(BBN)を生後6週から25週まで20週間経口投与し、膀胱化学発癌を行った。BBN投与後10週、20週終了後に膀胱を摘出し、膀胱発癌の有無および病期を検討した。別のrasH2およびWTはBBN投与終了後も飼育しその体重および生存率を比較した。c-MYCに対して免疫染色法を用いてその発現を検討した。 結果:BBN投与後の体重の推移は、投与開始20週以降rasH2の方がWTと比べて有意に少なかった。BBN投与開始10週後ではWT12匹中9匹、rasH2では12匹全例に膀胱癌が認められ(z2=3.4286、p=0.0641)、また20週後ではWT20匹中18匹、rasH2では16匹全例に膀胱癌が認められた(x2=1.6941、p=0.1931)が両者に有意差は認められなかった。しかし、浸潤性膀胱癌の発生頻度は10週後、20週後ともにオス、メスいずれでもrasH2がWTより有意に高かった(10週,オス,rasH2:8/8(100.0%),WT;3/8(37.5%>,x2=7.2747,p=0-0070,メス,rasH2:4/4(100.0%,WT二1/4(25.0%),x2=4.8000,p=0.0285)(20週,オス,rasH2:8/8(100.0%),WT:5/10(50.0%),x2=5.5385,p=0.0186,メス,rasH2:7/8(87.5%),WT:3/10(30.0%),x2=5.9513,p=0.01478)。BBN投与後の生存期間を比較すると、平均生存期間はrasH2(23.2週)が野生型(24.3週)と比べて有意に(P=0.0328)短かった。BBN投与後のc-MYC蛋白の発現はrasH2がWTより有意に亢進していた(P=0.0138)。 ヒト膀胱癌症例におけるテストステロン値を検討した。TUR-Btを施行し表在性膀胱癌と診断された180例中男性症例146例を対象とし血清テストステロン値を検討した。再発あり群と再発なし群で年齢(再発あり群:67.2±12.4歳、再発なし群:68.1±10.2歳、p=0.7244)および遊離テストステロン(再発あり群:5.9±2.0、再発なし群:68.1±10.2歳、p=0.7244)に差を認めなかったが、テストステロン値を比較すると、有意に再発あり群の方が低かった(再発あり群:411.8±194.4ng/ml、再発なし群:515.9±214.9ng/ml、p=0.0396)。
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