腎癌細胞株に発現している糖脂質糖鎖の解析により、Disialyl糖鎖の発現パターンの変化が腎癌での悪性化や転移性に関連していることが推測されている。本研究では、Lacto系列のDisialyl Lc4(DSLc4)の末端にGalNAcがβ1-4結合した新しいDisialyl糖鎖(GalNAc-DSLc4)の合成機構と機能の解析を行ってきた。とくに、GalNAc-DSLc4の合成に関わる糖転移酵素遺伝子β4GalNAc-T2を、GalNAc-DSLc4糖鎖抗原をほとんど発現していない腎癌細胞株に遺伝子導入し、糖鎖リモデリングの結果惹起される表現型の変異を解析してきた。これまでに、GalNAc-DSLc4安定発現株の癌性形質(増殖能・浸潤能)については、コントロール細胞株と比べ増殖度・浸潤能の亢進が認められている。また、リアルタイム細胞形態計測システム(RT-CES)を用い、さまざまな細胞外基質をコーティングした表面に対する細胞の接着挙動を調べた結果、GalNAc-DSLc4安定発現株はラミニンコーティングプレートに特異的に接着することが明らかになっている。そこでラミニンとの結合に関わる接着分子インテグリンの細胞表面における局在を調べた結果、安定発現株ではインテグリンβ1がraft domainにも局在していることが明らかとなり、ラミニン表面に対して強く接着するメカニズムに関与している可能性が示唆された。細胞がラミニン表面に接着する際の、インテグリンβ1とGalNAc-DSLc4糖鎖抗原の局在変化を共焦点レーザー顕微鏡などで観察したところ、二つの分子が常に共局在していることが明らかとなった。とくに接着開始から15分後には、接着面において細胞がより広がった形状になっている様子が認められ、この結果は、RT-CES測定の際、安定発現株のインピーダンスの方がコントロール細胞株のインピーダンスよりも上昇率が高かったことと一致した。
|