淋菌感染症は、世界で年間6300万症例と推定される性感染症である。近年、我か国でも、その罹患者の低年齢化が指摘されている。淋菌の宿主細胞に対する影響という視点では、未だに未解明な部分が多い。本研究では、宿主細胞に対する影響を淋菌感染細胞の細胞周期停止という視点より解明をめざしている。先にJonesらの報告で淋菌感染HeLa細胞は感染24時間後にサイクリンB1、サイクリンD1、サイクリンEの量的な減少を伴い、G1停止をおこす事が示された。しかし、淋菌と同属である髄膜炎菌感染HeLa細胞ではG1停止は認めらなかった。これは、近縁種における宿主細胞に対する反応性の相違性を示唆しており、G1停止は淋菌特異的な現象と考えられる。淋菌感染症の病態を考えた上で特続感染が持つ意義は完全に理解されていないが、宿主細胞の細胞周期停止という視点より研究を推進する事は新しい知見を提供することが期待できる。本年度は、淋菌感染によって引き起こされるG1停止の普遍性について検討するために、系統的に異なる(MLSTによる解析)20株についてG1停止能につて検討した。宿主細胞は、HeLa細胞を用いた。G1期停止の確認はcdk2リン酸化状態を指標にウエスタンブロットにて確認した。感染条件はMOI=100を中心に検討した。G1期停止の陽性コントロールは、thymidine処理した細胞を用いた。今回調べた20株では、有意にG1期停止を起こした株はなかった。この事は、Jonesらが実験に用いた菌株と本研究に用いた株が全く異なる(系統)であるか、もしくは実験条件が異なっていた事が考えられる。次年度では、初年度と異なる系統による菌株を用いた実験の再試及び感染条件の検討を行なう。その結果得られたG1停止能を示す株を用いて、当初の計画に基づいた淋菌感染細胞におけるG1期停止のメカニズムの解明に努める。
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