【目的】子宮体癌においてRas-PI3K(フォスファチジルイノシトール3-キナーゼ)経路はRasやPIK3CAの活性型遺伝子変異、癌抑制遺伝子PTENの機能喪失型変異による活性化が知られているが、染色体不安定性Chromosomal Instability(CIN)による染色体コピー数異常(Copy Number Alterations ; CNA)との関連は知られていない。今回、CNAを介したRas-PI3K経路活性化機序の解明、分子生物学的な予後不良因子の同定、他のPI3K経路関連遺伝子変異の探索を研究の目的とした。 【方法】倫理委員会の承認のもと同意が得られた子宮体癌43例において、SNPタイピングアレイ(50K/250K)を行い、CNAの症例毎の相違、PTEN/PIK3CA/K-Ras/NF1領域のCNAについて検討した。これら遺伝子変異に加え、89例を用いてAKT1遺伝子変異についても解析した。 【成績】CNAを5ヶ所以上に有するCIN-extensive群は、子宮体癌の25%を占めており、臨床進行期、組織学的分化度とは独立した予後不良因子であった。CIN-extensive群では86%において、PTENやNF1の欠失、PIK3CA、K-Rasのコピー数増加のいずれかのCNAを有していた。一方、CNAが4ヶ所以下のCIN-low群の86%で、PTEN/PIK3CA/K-Rasのいずれかの遺伝子変異が陽性であった。また、新たにAKT1の変異が子宮体癌の2%で存在することを見出した。 【意義】Ras-PI3K経路活性化は子宮体癌で極めて高頻度であり、主としてCIN-extensive群ではCNAを、CIN-low群では遺伝子変異によって誘導されることを明らかにした。また、CIN-extensiveは、臨床病理学的因子とは異なる、新たな予後不良因子のバイオマーカーであることが示された。
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