平成22年度には前年に行った基礎解析をさらに推し進め、転移抑制分子metastinの生体内での転移抑制効果を検討した。すなわち、metastinの受容体であるGPR54を発現する子宮体癌細胞株を子宮に移植したマウスにmetastinを投与したところ、子宮からリンパ節への転移が有意に抑制された。子宮からリンパ節への転移は、ヒトでも最も多くみられる子宮体癌の転移経路かつ生命予後を決定する独立予後因子であるため、同経路をブロックする臨床的意義は非常に高い。さらに、GPR54発現が低下している子宮体癌では遺伝子プロモーター領域のメチル化によってGPR54発現低下がもたらされていることを示し、GPR54発現が低い子宮体癌細胞株にメチル化阻害剤を作用させることで発現が回復することを明らかにした。metastin単独では同細胞株の浸潤能は抑制されなかったが、メチル化阻害剤と併用することで浸潤能が有意に抑制されたことから、この2剤を組み合わせることでGPR54発現が低い子宮体癌でもリンパ節転移を抑制し予後を改善する可能性が示唆された。以上の結果をまとめ、下記学会発表および論文発表を行った。同様に、腫瘍細胞の浸潤・播種に影響を及ぼす腫瘍周辺の微小環境の検証や、マイクロアレイ解析の妥当性について他臓器癌モデルでの検証、さらに他の予後規定遺伝子のエピジェネティックな発現解析も並行的に行い論文発表することで、当研究手法の妥当性・重要性を確認している。他方、予後不良な子宮体癌の多様な病態を明らかにするために積極的に症例報告を行い、常に臨床に即した研究計画の推進を目指している。
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