研究課題
近年、妊娠高血圧症候群の病態としてTwo Step Theoryが有力となっている。具体的には、妊娠初期における絨毛の子宮への浸潤不全(First Step)と、妊娠の進行に伴う絨毛間腔の低酸素状態などが原因で発現が増加したsFlt-1やsEndoglinといった液性因子がVEGFやPLGFといった血管新生因子を阻害することによる血管内皮障害(Second Step)である。我々は、細胞外マトリックス分解酵素であるMMP9を抑制し、着床期において絨毛の子宮脱落膜への浸潤調節に関与していると考えられているTIMP3に着目した。HVJ-Eベクターによる生体内-過性遺伝子導入法を用いて、TIMP3を妊娠初期マウス子宮に遺伝子導入し、TIMP3が妊娠に及ぼす影響について検討した。妊娠6.5日目にTIMP3遺伝子を導入したところ、24時間後に導入したTIMP3蛋白の発現を確認し、MMP9蛋白発現の抑制も認めた。導入されたTIMP3は子宮内膜間質細胞にその局在を認めた。妊娠14.5日目以降、TIMP3導入マウスの収縮期血圧は有意に上昇し、TIMP3導入マウスの出生仔体重と胎盤重量は有意に低下した。また、分娩後12時間での血中のsFlt-1・sEndoglinは共に有意な減少を認めた。この結果により、妊娠子宮におけるTIMP3の発現制御機構D破綻により、妊娠高血圧症の発症を誘導しうることが示唆された。妊娠高血圧症候群は、重篤な母体合併症を起こす疾患であり、人工早産を余儀なくされ、周産期センターやNICUの病床不足の原因となっている。この研究成果により、妊娠高血圧症候群の病態が分子レベルで解明される一助になるとともに、人工早産による未熟児の発生を回避させうる分子標的治療の開発が期待できる。妊娠高血圧症候群の治療法の開発は、日本の切迫した周産期医療・新生児医療の改善に貢献するであろう。
すべて 2009
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