研究課題
近年、妊娠高血圧症候群の病態としてTwo Step Theoryが有力となっている。具体的には、妊娠初期における絨毛の子宮への浸潤不全(First Step)と、妊娠の進行に伴う絨毛間腔の低酸素状態などが原因で発現が増加したsFlt-1やsEndoglinといった液性因子がVEGFやPLGFといった血管新生因子を阻害することによる血管内皮障害(Second Step)である。そこで我々は、絨毛の子宮への浸潤不全(First Step)モデルマウスを作成することで妊娠高血圧症候群を再現できないかと考え、着床期において絨毛の子宮脱落膜への浸潤調節に関与していると考えられているTIMP3に着目した。HVJ-Eベクターを用いた生体内一過性遺伝子導入法を用いて、TIMP3を妊娠初期にあたる交配後6.5日目のマウス子宮に遺伝子導入したところ、妊娠14.5日目以降、TIMP3導入マウスの収縮期血圧は有意に上昇し、尿蛋白も有意ではないものの増加傾向を認めた。また出生仔の体重と胎盤重量は有意に低下した。この病態はヒトにおける妊娠高血圧症候群と子宮内胎児発育不全が併発しやすい事実と一致している。また、血中のsFlt-1・sEndoglinは共に有意な減少を認めたが、これもヒトにおける妊娠高血圧症候群で認められる所見である。つまり、このマウスは妊娠高血圧症候群モデルマウスとして有用であると考えられた。そこで、現在はSubtraction Suppressive Hybridization(SSH)法を用いて正常妊娠マウスと比べて子宮・胎盤における遺伝子発現量をスクリーニングし、妊娠高血圧症候群の発症・成因に関与する新たな候補遺伝子の同定作業を進めている。妊娠高血圧症候群は、重篤な母体合併症を起こす疾患であり、人工早産を余儀なくされ、周産期センターやNICUの病床不足の原因となっている。この研究成果により、妊娠高血圧症候群の病態が分子レベルで解明される一助になると共に、人工早産による未熟児の発生を回避させうる分子標的治療の開発が期待できる。妊娠高血圧症候群の治療法の開発は、日本の切迫した周産期医療・新生児医療の改善に貢献するであろう。
すべて 2011 2010
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (11件)
Indian Journal of Physiology and Pharmacology
巻: 54(5) ページ: 27-32
Prenat Diagn
巻: 30(10) ページ: 1005-1006
J Obstet Gynaecol Res
巻: 36(2) ページ: 411-413
Int J Obstet Anesth
巻: 19(1) ページ: 87-91
巻: 30(5) ページ: 489-491
巻: 37(3) ページ: 254-258
産婦人科の実際
巻: 59(7) ページ: 1035-1042