研究概要 |
パクリタキセル(以下TXL)は米国における第I相試験で亜篤な過敏症反応であるHypersensitivity Reaction (HSR)が発現した。TXLのHSR発現機序は、I型過敏症に類似しているので免疫学的関与が示唆されるが、初回投与での発現例もあることから、ヒスタミン遊離作用とは無関係の非免疫学的機序の関与も考えられ、現時点で明らかな機序は不明である。 TXL投与によるHSRの発症機序に関する九州大学病院薬剤部での動物実験より、ヒスタミンは関係なく、むしろSubstance PやNK_1などの知覚神経ペプチドが関与している可能性が証明され、前投与でHSR発症予防に有効であったのはステロイドだけではないかと考えられた。そこで九州大学病院産科婦人科でTXLを含む化学療法を受ける患者を、従来のSP法のみを施行する群とSP法に加えて知覚神経ペプチド拮抗薬をTXL投与2時間前に経口投与する群の2群に分けてHSRの発現率を比較し、投与群で有意に低かった(p<0.05,χ^2検定)。 最近国内承認されたNK_1の選択的拮抗薬であるアプレピタントは遅延性悪心・嘔吐を予防する制吐剤である。日本癌治療学会編・制吐薬適正使用ガイドラインにおいては、5-HT_3受容体拮抗薬およびデキサメタゾンに加えて、アプレピタントの投与がオプションとして勧められた。この新しい制吐剤は主にNK_1知覚神経ペプチドを抑制して遅延性悪心・嘔吐を予防するため、前述の我々の研究結果からもわかるように、TXLのHSR発症を予防する可能性を有している。そこで、TC療法施行患者においてアプレピタント投与群と非投与群に分け、HSRの予防効果について二重盲検法で検討を閉始した。また、アプレピタント本来の遅延性悪心・嘔吐の予防効果に関して、婦人科がんのTC療法において検討した二重盲検試験はなく、この点についても副次評価項目として検討を開始した。TC療法の制吐薬としてオプション使用を許されている本剤のHSR抑制効果を検証することは、倫理的にも問題ないばかりか、有効なHSR予防効果が示された場合に、婦人科がんの治療における貢献は大であると考えられる。
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