妊娠高血圧症候群の病因は胎盤形成期でのトロホブラストの子宮らせん動脈への侵入不全の結果、子宮・胎盤血流が減少することによりendothehal cell activationとよばれる血管内皮機能が障害されるとの仮説が提唱されている。我々は、妊娠高血圧症候群妊婦から得た抵抗血管では内皮における一酸化窒素(NO)産生障害ではなく、その反応性の異常が発生していることを明らかにした。しかし、そのメカニズムは明らかではない。胎盤形成期に胎盤形成不全を発症させた動物を作成し、ex vivo下で子宮動脈の血管内皮におけるCa<2+>濃度の変化、NO産生や活性酸素(0_2^-)産生を直接的に測定し、その内皮機能の特性変化について検討した。 生後10週齢の妊娠Wistar-STラットにNO合成酵素阻害薬であるL-NAMEを、胎盤形成期である妊娠8~14目まで浸透圧ポンプを用い皮下持続投与を行った(L-NAME群、n=5)。対照群は生理食塩水を投与した(n=6)。血圧測定は無加温型非観血式血圧計を用い、Tail cuff法にて行った。妊娠20日に子宮を摘出し、胎仔と胎盤の重量を測定した。子宮動脈内皮温存標本を作製し、Ca<2+>蛍光指示薬(Fura-2AM)、NO蛍光指示薬(DAF-2DA)や活性酸素種蛍光指示薬(CM-H2DCFDA)を添加した。倒立顕微鏡下に標本をKrebs溶液で灌流し、生体内内皮刺激物質であるアセチルコリン(ACh)添加による内皮細胞の蛍光強度の変化をfluorescence imaging systemにより経時的に測定することで、内皮細胞内Ca<2+>濃度、NO産生と活性酸素種産生を測定した。本研究は当大学動物実験倫理委員会の承認を得た。 収縮期血圧は、L-NAME投与により有意に上昇し、L-NAME投与終了後も高値を推移した。胎仔重量および胎盤重量はL-NAME群で減少していた。L-NAME群血管内皮細胞で、ACh添加によるNO産生が対照群より増強した。一方、Ca<2+>濃度上昇と活性酸素種産生はL-NAME投与群と対照群で差を認めなかった。 胎盤形成期のL-NAME投与は、胎盤形成不全による胎仔発育不全を発症するとともに血圧が上昇することから胎盤機能不全による血管トーヌスの増加を惹起した。その子宮動脈における血管内皮機能変化のメカニズムは、生体内内皮刺激物質によるNO産生の亢進による。しかし、細胞内Ca<2+>濃度は変化しないし、また、活性酸素種発生の関与は認めなかった。
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