テロメラーゼは染色体末端のテロメアを伸長する酵素である。テロメラーゼの触媒サブユニットであるhTERT (human telomerase reverse transcriptase)の発現は悪性腫瘍に高度に限定しており、hTERTはがんの診断や治療の標的分子として注目されてきた。近年、TERTがテロメア伸長以外にも細胞内で重要な機能を担っていることが示唆されている。我々は、hTERTがRMRP (RNA component of mitochondrial RNA processing endoribonuclease)と結合して、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)活性を示すことを見出した。RMRPは機能性non-coding RNAであり、正常細胞株からがん細胞株まで幅広く発現している。hTERTとRMRPとを共に発現している子宮頚癌細胞株(HeLa細胞)や乳癌細胞株(MCF7細胞)を用いた検討では、hTERT-RMRP複合体のRdRP活性により、細胞内でsmall interference RNA (siRNA)に類似したRMRP由来の小さなRNA (small RNA)の合成が確認された。 siRNAやmicroRNAなどの20から30塩基長の小さなRNAは、塩基配列特異的に遺伝子の転写や翻訳を抑制し、細胞の機能を制御している(RNAサイレンシング)。そこで、hTERTのRdRP活性の実質的な機能分子と考えられるRMRP由来small RNAについて検討したところ、このRNAは相補的塩基配列を標的とし、配列特異的に遺伝子発現を抑制することが示された。また、標的となるRNAの認識にはsmall RNA内の複数の配列部位が関与しており、ヒトゲノム上に標的と成りうる複数の遺伝子の存在を確認した。これらの結果から、テロメラーゼは新たに同定されたRdRP活性を介して、RNAサイレンシングにより癌細胞での遺伝子発現に関与していることが示唆された。
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