前年度までに樹立したCD9-/-ES細胞がES細胞の特性の一つである「多分化能」を保持しているかを、以下の解析により評価した。(1)分化誘導三次元培養法により、胚様体(EB : embryoid body、三胚葉[内胚葉・中胚.葉・外胚葉]が誘導された状態)の形成を行ったところ、得られたCD9-/-EBはCD9+/+EBと同様な形態を示し、CD9-/-ES細胞は効率的に分化誘導されたことが確認できた。(2)CD9-/-EBにおいて三胚葉の分化マーカーとなる遺伝子発現(外胚葉マーカー: Nestin、中胚葉マーカー:Brachyury、内胚葉マーカー:Gata6)をRT-PCR法および定量的PCR法により確認した結果、CD9-/-ES細胞は野生型ES細胞と類似の遺伝子発現パターンを示し、CD9-/-ES細胞は三胚葉系列への分化能を保持していることが確認できた。一方で、未分化マーカー(Oct3/4、Sox2、Nanog、Rex1)の発現が減少していることも同時に観察された。(3)CD9-/-EBを特定の細胞種へ分化誘導するための培養環境下でさらに培養を行った結果、Tuj1(神経系細胞マーカー)、cTnT(心筋系細胞マーカー)、AFP(肝臓系細胞マーカー)の発現が免疫組織化学法により観察できた。以上の結果より、CD9-/-ES細胞は三胚葉それぞれに由来する細胞へと分化する能力を持つ多能性幹細胞であることが示唆された。
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