CD9-/- ES細胞を用いた解析から、膜タンパク質CD9分子はES細胞の特性評価に関わる1つの因子であることを前年度までに明らかにした。一方で、CD9はES細胞の機能性の維持においては必須の因子でないことが示唆された。つまり、CD9-/- ES細胞においては、CD9の働きを他の分子が補填することで、未分化性および分化多能性の性質が維持されているものと推測された。そこで、本年度では、CD9-/- ES細胞と野生型ES細胞における遺伝子発現レベルの違いを網羅的に解析することにより、CD9-/- ES細胞においてCD9分子の機能を補填する因子の同定を試みた。マイクロアレイの解析結果をもとに、CD9-/- ES細胞において野生型ES細胞よりも高く発現している遺伝子について考察した結果、CD9-/- ES細胞において膜タンパク質関連遺伝子の発現が、主に上昇していることが示された。そこで、一部の膜タンパク質関連遺伝子について、定量的PCR法によりその発現量を詳細に解析した結果、細胞膜関連遺伝子群(Adm、Ptprc、Itga4、Tspan11、Pou4f3、Zdhhc1、Ptger4、Zdhhc7)に関しては、CD9-/- ES細胞において大きな発現上昇は見られないものの全体的に上昇傾向にあることが観察された。しかしながら、以上の結果がCD9-/- ES細胞の生存維持に直接関与しているとは考えにくく、その詳細については不明であり、今後さらなる解析を進める必要があると結論づけた。
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