研究概要 |
着床前期胚発生は、受精、胚性ゲノム活性化、コンパクション、胚盤胞腔の形成、内細胞塊と栄養外胚葉への分化および分化全能性の獲得など、生殖生物学及び再生医学において極めて重要な事象を含む。本研究では、着床前期胚に特異的に発現する新規遺伝子Hmgpに注目し、詳細な発現解析および機能解析を行った。Hmgpタンパクは胚盤胞期において細胞質から核内へ移行することから、胚盤胞期にはじめて転写因子として機能することが示唆される。そこでRNA干渉法を用いて、Hmgpによる着床周辺期胚発生への関与を検討した。 siRNAによりHmgpの発現をノックダウンして胚盤胞まで発生した胚を用いた胚移植実験の結果、着床率は45.8%、妊娠継続率は24.7%と着床周辺期胚発生は有意に低下した(コントロール注入群:76.5%、66.6%,in vivo)。 胚性幹(ES)細胞の樹立過程におけるHmgpの関与を明らかにすべく、siRNAによりHmgpの発現をノックダウンした胚盤胞をoutgrowthに供してES細胞の樹立を試みたが、outgrowth発育率は19.0%だった(コントロール注入群:91.8%,in vitro)。RT-PCR法を用いた発現解析では、ES細胞では発現を認めたものの、胎児性癌(EC)細胞では発現を認めず、HmgpはNanog,Eras,Gdf3をはじめとしたECAT(ES cell-associated transcript)遺伝子のひとつに属する。さらにin silico解析の結果、iPS細胞の樹立過程においても発現することから、HmgpはES細胞の樹立および多能性に関与することが示唆された。 以上より新規転写因子Hmgpは着床前期およびES細胞の樹立過程において発現し、初期胚発生およびES細胞の樹立過程において重要な役割を果たすことが示された。
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