抗TNF-α抗体の内耳保護効果の検討 TNF-αは炎症のメディエーターであり、サイトカインカスケードの上流に位置する。サイトカインによる細胞死はアポトーシスであり、一連のタンパク質群に制御されて生体の恒常性の維持に寄与している。一方、本研究者はプロテアーゼ阻害剤でアポトーシスを阻害するLeupeptinがNeomycinに対する有毛細胞保護作用を有することを報告している。突発性難聴も有毛細胞が障害されることにより難聴を来すことがわかっており、アポトーシスが原因となっている可能性が高い。TNF-αは関節リウマチにおいて特に注目され、TNF-αに対する中和抗体が種々作成され治療に試みられているが、副作用も頻発するため実際の臨床使用では使用条件が厳格に規定されている。突発性難聴の新たな治療方法として抗TNF-α抗体療法はアポトーシス阻害という観点から有用性が期待されるが、頻発する副作用を考慮に入れると全身投与は不適と考えられた。 現在、内耳に限局した薬剤の投与方法としては、蝸牛開窓による直接投与と正円窓膜経由の鼓室内投与が臨床的に行われている。後者の方が比較的低侵襲に投与が可能な方法であり、全身的な副作用を極力抑えてより高い濃度の薬剤を内耳に投与できる方法である。本研究者は既にデキサメサゾンの鼓室内投与が突発性難聴の治療に有効であることを報告している。正円窓経由の確実な投与方法として内視鏡を併用した経鼓膜的鼓室投与が効果的であると考えられ、内視鏡を使用した鼓室内操作の手技体得と情報収集のためフランスで行われたENDOSCOPIE ORL 2009に赴き、発表者らとディスカッションを行った。
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