頭頸部癌は咽頭・喉頭等に発生し、生命予後のみならずQuality of Lifeの観点からもその克服が急務である。頭頸部癌の大部分を占める扁平上皮癌は、角化傾向を呈し、原発部位と転移部位に硬い腫瘤を形成しながら頭部・頸部さらに体幹へと浸潤・転移する。最近になって癌の浸潤・転移には上皮-間葉転換(EMT)という多段階の細胞生物学的過程が必須であることが判明した。癌細胞表面分子は「ESCRT小胞輸送複合体」と呼ばれる特異な膜結合性蛋白群によって輸送・分解され、量的調節を受けることで癌細胞の悪性化を誘導している可能性が高い。そこで本研究ではヒト頭頸部癌に焦点を当て、ESCRTによる細胞内小胞輸送系を介した癌細胞の悪性形質制御機構を解析する。 ドキシサイクリン誘導性癌細胞を用いたin vitro悪性化(EMT)の解析 癌細胞におけるESCRT小胞輸送系の役割を解析するため、ドキシサイクリン誘導系癌細胞株を樹立し、輸送系異常による悪性化を検証する。 癌細胞株として本年度はまず一般的細胞株として知られているHeLaおよびMCF7を対象としてESCRT蛋白に会合する酵素を発現誘導する実験系を構築した。レトロウイルスベクター(pRetroX)によって脱ユビキチン化酵素AMSH、AMSH-LPをドキシサイクリン依存性に発現する細胞株の樹立に成功した。誘導性の良好なクローンを複数樹立することに成功したため、これらの細胞株を用いて増殖能を調べたところ明らかな差異はなかった。今後EMT、形態変化、運動性の亢進、の変化を検討する。
|