先天性高度難聴は1000人に一人の割合といわれているが、難聴を早期に発見し適切な医学的・療育的介入を行えば正常な聴覚言語の獲得が期待できる。新生児聴覚スクリーニングでreferとなった児に対して、精密検査として聴性定常反応(ASSR)を用いた他覚的聴力検査が睡眠下に行われる。ASSRは周波数別の反応閾値が測定できる点で補聴器の利得調整、音質調整に有利である。しかしながら現在ASSRによる聴力検査には長い検査時間と正確性という二つの重大な問題がある。本研究はこの二つの問題点について検討し、短時間で精度の高い新しい検査システムを構築することを目的として行っている。 現在市販化されているASSR検査装置では脳波の記録条件が固定されており、変更することは出来ない。平成21年度は検査時間の短縮化を図るために、脳波のサンプリング周波数や記録時間などの記録条件を自由に変更できる新しいASSR測定システムをLab VIEW (National Instrument社)を用いて作製した。さらに反応の有無についてより精度を高めるため、パワースペクトル解析および位相スペクトル解析の二つで同時に解析可能なシステムとし、聴力正常成人よりデータを集め、至適条件を決定した。 平成22年度は聴力正常成人においてASSRと睡眠ステージを同時に測定し、ASSR反応振幅や背景ノイズが睡眠ステージによってどのように変化するのか検討した。ASSRの反応振幅には睡眠ステージ毎の有意な変化を認めなかったが、背景ノイズはステージ3の深睡眠とREM睡眠で有意な低下を認めた。この結果、深睡眠やREM睡眠ではASSRのシグナルノイズ比が高値を示し、睡眠下のASSR反応閾値から聴力レベルを推定する際には、睡眠ステージの影響を考慮する必要があると考えられた。
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