ラットの脳(前庭神経核を含む脳幹)スライス切片を作成し、パッチクランプ法にて前庭神経核の神経細胞の膜電位変化を記録した。細胞を膜電位固定し正常細胞外液下に記録を行った。-60mVの膜電位固定下では、自発性興奮性シナプス後電流(sEPSCs)が記録され、+40mVの膜電位固定下では自発性抑制性シナプス後電流(sIPSCs)が記録された。薬理学的な実験結果より、sEPSCはグルタミン酸作動性入力、sIPSCはGABA作動性入力であった。次に、興奮性入力にfocusを当てて、低酸素低グルコース(Oxygen-Glucose Deprivation ; OGD)細胞外液を10分間還流させた。このとき前庭神経核神経細胞ではsEPSCの大きな変化は見いだせなかった。sEPSCの変化は、発生頻度(Frequency)と、平均振幅(Amplitude)で行った。 次に、ラットを使用して小脳虫部のスライス切片を作成し、前庭小脳領域のプルキンエ細胞にパッチクランプを行い、-70mVに膜電位固定後、同様に低酸素低グルコース(Oxygen-Glucose Deprivation ; OGD)細胞外液を5分間還流させた。すると今度は、sEPSCの顕著な増加が観察された。細胞外液を生理的な外液に変更し、OGD外液をwash-outすると、sEPSCは減少し、ほぼベースラインの状態に回復した。このことから、ODG外液還流によるsEPSCの増加は一過性で可逆性の変化であることが分かった。次に、前庭小脳以外の小脳領域で、同様の実験を行った。対象とした前庭小脳以外の領域においてもOGDによるsEPSCの一過性の増加は観察されたが、その増強程度は前庭小脳で有意に高い結果となった。sEPSCの増加は、顆粒細胞の自発発火の増加を示し、以上より、前庭小脳領域の顆粒細胞は一過性虚血刺激により、他の小脳領域に比べ発火頻度が有意に増加することが分かった。これらの実験結果は、前庭小脳領域が虚血性刺激に対して易感受性を示すことを示唆する。
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