研究概要 |
加齢性難聴は熟年者で認められる最も多い慢性疾患の一つである。その原因は騒音ストレスなど聴器毒性物質の蓄積による蝸牛機能の劣化に因ると考えられている。 一方、種々の環境要因に加え遺伝的素因が老化プロセスに関与している証拠が近年報告される他、一塩基多型(single nucleotide polymorphism : SNP)とある疾患の罹患率や薬耐性との間に相関があるという報告がある。 これらから、SNPsと聴力、とりわけ後天的難聴である加齢性難聴においても遺伝的素因との関連があると予想した。本研究は加齢性難聴に関与すると考えられるSNPを同定することを目的として、tagman-sequence-analysisと生物統計学的解析を試みた。40歳代以上239名を対象に加齢性難聴責任候補遺伝子14個を選出し一遺伝子につき2つのSNPsを解析した。得られたSNP解析と聴力像の結果から、内耳で豊富に発現し、その変異が難聴を惹起することで知られるCOCH (cogulation factor C homology, choclin)内に存在するSNPで、ある遺伝子型をもつ被験者は他の遺伝子型をもつ被験者に比して聴力が統計的有意に良いことが認められた。更に、内耳に発現しその変異がUsher syndromeの原因として知られるMyosin VIIa (MYO7A)内に存在するSNPで、ある遺伝子型をもつ被験者は他の遺伝子型をもつ被験者に比して聴力が良い傾向が認められた。信州大学では熟年体育大学プログラム(JTP)と称して、予防医療の促進に念頭をおいた活動を行っており、熟年者を対象に聴力、血糖値、血中コレステロール、筋肉量などを定期的に測定管理するとともに、これらを指標として運動処方による改善促進を指示している。今後更に増加するJTP参加者を利用して、得られた結果の再現性、統計的有意性を確立したいと考えている。本研究結果より、COCHとMYO74は先天性難聴責任遺伝子のみならず、加齢性難聴にも関与することが示唆された。
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