研究概要 |
気管は規則正しく並んだ気管輪により保持されるというユニークで合目的な形状を持つことで伸張や短縮、陰圧や陽圧に対応しその管腔様構造を保っている。何らかの原因で気管輪の構造が損なわれると吸気時において気道内に陰圧がかかった際に気管内腔が変形し、重篤な呼吸障害を生じる。小児での先天性・後天性気管狭窄や甲状腺癌における気管合併切除例などに対し、骨・軟骨移植や人工気管を含む様々な治療が行われているが、気管欠損が広範囲であったり気管支に及ぶ場合には治療に難渋する。気管欠損、狭窄の根本的な解決にはやはり気管を組織学的に再生するのが理想である。 気管の再生には気管発生の理解が不可欠であるが、気管が発生においてどのように形成されるのかについてはほとんど分かっていない。一方、bHLH(ヘリックス・ループ・ヘリックス)型転写因子が胎生期において周期的(2時間毎)に増減(オシレーション)しており体節の規則正しい形成を担っていることが報告されている。 本研究においてHes 7ノックアウトマウス、Lunatic fringeノックアウトマウスの成体マウスを解析したところ、Hes 7ノックアウトマウス、Lunatic fringeノックアウトマウスでは野生型に比べ気管輪の数が少なくまた不整形であり、気管の径も拡張していることが明らかとなった。Hes 7ノックアウトマウス、Lunatic fringeノックアウトマウスのほとんどは呼吸不全で生直後に死亡することが知られている。本予備実験で検討したのは死亡を免れた表現型の小さい成体マウスであり、生直後のマウスではさらに大きな異常があるものと予想される。Hes 7,Lunatic fringeのオシレーションが気管形成に関わっている可能性が示唆された。
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