吃音の神経基盤が、発語のエラーに対するモニタリング障害により生じるとするエラー訂正障害仮説を提案する。この作業仮説を検証するために、吃音時の脳磁図記録を試みた。 聴覚、特にクリック音によるP50mのダイポールモーメントの大きさが2連発刺激とよって抑制される程度を評価指標として聴覚ゲーティングを評価した。この結果健常群では左半球でょり抑制がなされるのに対し、吃音群では左右差がなく、健常群より抑制が低下していることが示された。また500Hz、1000Hz、4000Hzのトーンバースト音によるN100mのダイポールの座標が周波数の順に並ぶ周波数配列を群間で比較したところ、吃音で左半球の機能低下、また右半球の代償機転と考えられる機能亢進が示唆された。 周波数配列による脳活動で左右半球間の機能連関の強度が吃音で変化しているという仮説に基づき、更に解析を試みた。刺激には周波数配列に用いた各周波数のトーンバースト音を片耳提示し、その際の誘発脳磁場を得た。本解析のための手法として周波数分析を用いた。周波数分析には短時間の変化を捉えやすいウェーブレット変換を使用し、各時刻で位相情報を得た。100回前後のエポックで各チャンネルの反応が刺激にどの程度同期して反応しているか示す指標としてphase locking factor (PLF)、チャンネル間でどの程度反応が同期しているか示す指標としてphase locking value (PLV)を計算し評価を行った。吃音者では右聴覚野のチャンネルでPLFおよび、左右聴覚野のチャンネル間でのPLVが高いことを発見した。このことは音刺激に対し右聴覚野の機能が亢進し、また健常者では左半球優位でなさわている音処理が左右半球間で連携が強まっていると解釈され、吃音者での右半球の代償的変化を示唆すると考えられた。
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