研究概要 |
本研究では,感覚糸(tip link)の破綻ならびに再生過程がほ乳類においても成立するかどうかにつき検証した.次いでtip linkならびに同様の分子構造をもつと考えられているdevelopmental linkが,細胞頂側面の形態形成に関与する可能性についても検討した.まず,蝸牛感覚上皮の器官培養システムを用いて、有毛細胞におけるtip linkの再生の可能性を検証した.培養したラット蝸牛感覚上皮をCa^<2+>キレーターで処理してtip linkを切断した後に,Ca^<2+>を再添加して18時間培養し走査型電子顕微鏡を用いて観察したところ,蝸牛内有毛細胞においてtip linkの再生を示す所見が認められた.tip linkの再生は外有毛細胞では確認できず,細胞腫によってtip linkの再生能に差があると推測された.また,出生後早期の蝸牛感覚上皮細胞の形態を経時的に観察すると,外有毛細胞の頂側面はtip linkが成熟する時期である生後1週間に特徴的な形態変化を示すことが判明した.感覚糸構造の成熟が不動毛経由のシグナルを介して細胞小側面に伝達され,細胞骨格の再構築を促す可能性が示唆された.tip link障害が関与すると考えられる感音難聴において,内有毛細胞に比べて外有毛細胞の細胞死が多く認められることは良く知られている.今回の結果は,このような障害からの回復過程にtip linkの再生能の差異が関与している可能性が示唆された点で意義深い.さらに,tip linkの障害により細胞形態維持機構が破綻し,これが細胞死を引き起こす可能性も示された.今後,内有毛細胞と外有毛細胞におけるtip link関連分子の違いを解明することで,tip link再生を利用した新たな治療につながると期待される.
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